ほら、朝焼けがやってくる

bleach/奈樂と紅葉ちゃん
☆special thanks/
まきまきちゃんにタイトルいただきました。夢主さんもお借りしてます。
まだ薄暗い夜明け前に布団を片付けて日課の散歩でもと身体を起こした奈樂の耳に、幼い少女の泣き声が微かに聞こえた。
「おや」
小さな独り言と共に耳をすましてのっそりと身体を動かす。廊下に出て他の兄弟を起こさないように静かに歩くと、容易に声の主を見つけることが出来た。障子の隙間からちらりと部屋を覗く。宵のうちに眠ってしまったので目が覚めてしまったのだろうか。夕陽色の髪が敷布団の上に散らばって細い肩が小刻みに揺れていた。紅葉はまだ幼く、暗闇が苦手だ。いつもなら神樂が面倒を見てやるのだが、今夜は特別な用があると聞いていた。仕方がない。彼女はそもそもが忙しい身なのに、それに加えて働いていないと落ち着かない性分なのだ。
「紅葉」
囁きかけるように声を掛けると泣き声は止まった。おそるおそるといったようにこちらを振り返る紅葉の瞳が自身の瞳の色と瓜二つであることを奈樂はこっそり気に入っていた。
「よかったら兄様の夜のお散歩に付き合ってくれませんか?」
畳に座ってその温かな髪を撫でながらそう言えば、紅葉はこくりと頷いた。
*
紅葉に自身が羽織っていた羽織を着せて庭を取り留めなく歩きながら、奈樂はぽつりぽつりと家族の話をしていた。ここに来たばかりの時には考えられなかったことだが、自分の家族について考えることが増えた。妻のこと。入江のこと。水明のこと。水明の娘の忍のこと。以前は全く興味を持てなかった家族というものをおっかなびっくり大事にしてみようと思う自分がいる。紅葉は最初は頷きながら奈樂の話を聞いているだけだったが、少しずつ元気を取り戻したのかいつものように笑うようになった。そんな紅葉と比例するように薄暗かった空は夜を押し上げて黄昏のように赤い色に染まり、きらめく夜明けの太陽を迎え入れた。今日も新しい朝がやってくる。
「にいさま」
「おや?どうしました?紅葉」
「ならくにいさまのかぞくとも、なかよくなれるかな?」
その言葉に、奈樂は僅かに瞳を見開いた。そのまま愛おしげに朝焼けに照らされる優しい妹を眩そうに眺めながら微笑む。
「ふふふ。紅葉なら大丈夫ですよ」
心をかけ上る優しい温もりは何百年も空っぽだった男の瞳に光を灯した。

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